子の休校休園で仕事休む保護者への助成金 支給は予算の3割

全国の学校への一斉休校の要請から1年となる中、子どもの休校や休園で仕事を休まざるをえなかった保護者のための助成金の支給は、確保された予算の3割となっていて、保護者からは助成金を活用できないという声が出ています。専門家は「必要な人に届いていないおそれもあり、制度の改善と代替策が必要だ」と指摘しています。

1年前の一斉休校の要請を受け、厚生労働省は、新型コロナウイルスによる子どもの休校や休園で仕事を休まざるをえなかった保護者のため、「小学校休業等対応助成金」を創設しました。

労働基準法上の年次有給休暇とは別に、有給の休暇を取得させた企業に、去年3月までは1人1日当たり上限8330円、4月以降は上限1万5000円の助成金を支給することで、保護者を支援するものです。
申請は企業が行い、全国で最も早く北海道で休校が始まった去年2月末から、今月19日までの支給決定は13万7830件、446億5000万円となっています。

フリーランスに対する同様の支援金の支給額53億円と合わせても、確保された予算1719億円の29%となっています。

厚生労働省は、予算はひとり親世帯や共働き世帯などの統計をもとに余裕を持って組んだとしつつ、制度の周知不足や、企業の申請控えが指摘されてきたため、去年11月に全国の労働局に「特別相談窓口」を設置して、対応してきました。

しかし、その後も保護者から「会社が申請してくれない」という声が出ているほか、与野党の国会議員からも、予算の執行率の低さや、救済策の必要性への指摘が出ています。
感染拡大に伴う国の制度に詳しい野村総合研究所の武田佳奈上級コンサルタントは「子育て世代に共働きが増えている現状から、対象者はもう少し多いとみられ、十分申請できていないおそれがある。企業側への利用の促進や制度の改善とともに、今も困っている人に対し代わりの支援策を幅広く検討することが必要だ」としています。

厚生労働省は、全国に設けた窓口への相談内容に応じて直接企業に申請を促すほか、経済団体を通じて引き続き制度の活用を呼びかけていくとしています。

保護者「助成金を活用できない実態ある」

新型コロナウイルスによる一斉休校の要請から1年となるなか、子どもの休校で仕事を休まざるを得なかった保護者らが、賃金を補償する国の助成金が活用できない実態があるとして28日札幌市で会見を開き、制度を見直す必要があると訴えました。

会見を開いたのは道内のほか関東などの小学生や園児の保護者らのグループ「子育て緊急事態アクション」で仕事を持つ母親など14人が参加しました。

会見では新型コロナウイルスによる休校で仕事を休まざるを得ない保護者の賃金を補償する国の助成金について、企業が申請をせず、補償が受けられない実態があるとして3人の母親の声が紹介されました。

このうち、札幌市の子育て中の母親は、勤務する会社側から、「休校に伴い仕事を休む人と出勤している人との間で不公平感がある」と言われ会社は助成金の申請を一部しか行わなかったということです。

グループでは助成金を個人でも申請ができように制度を見直す必要があると訴えました。

札幌市で2人の子どもを育てる田中小夏さんは、「子育てしている人に届かない助成金は意味がない。子育て世代の大変さを社会全体が知ってほしい」と話していました。

グループは3月1日、助成金の申請を個人が行えるよう求める要請書を厚生労働省に提出するとともに、ツイッターで全国から声を集めながら活動していくことにしています。

声をあげた保護者 「何とか政治や行政に声が届いてほしい」

今回、声をあげたひとり、札幌市の田中小夏さん(28)も会社に助成金を申請してもらえませんでした。

自営業の夫と7歳の長男と3歳の長女と暮らす田中さんは、アパレル店でパートとして働いていましたが、一斉休校で長男は小学校に通えず学童保育も閉鎖されたため、去年の3月は数日しか働けませんでした。

それまで、多いときで週5日働き、月に8万円ほどの収入を得ていましたが、収入は2万円台に落ち込んだと言います。
休校の助成金を活用して有給休暇にしてほしいと、会社に申請をかけあいましたが、働いている人もいる中で不公平になるといった理由などから、申請してもらえなかったといいます。

数か月交渉しましたがかなわず、田中さんは5年以上続けた仕事を辞めました。

その後見つかった清掃の仕事は、週に3日ほどで、収入は月3万円余りと半分以下に減ったままです。

現状をSNSで発信したところ、全国各地に同じように会社に助成金を申請してもらえない保護者がいると知り、制度を使いやすくしてほしいと、初めて署名活動を行うなどして働きかけてきました。

これまで育児や仕事に追われ、政治に関心はうすかったといいますが、国会中継も見るようになり、1人ひとりの声を届ける必要性を感じているといいます。

田中さんは、「一斉休校から1年がたちますが制度の使いにくさは変わっていないと感じます。助成金申請のタイムリミットが来る前に多くの人に知ってもらうにはいましかないと思いました。仕事を休まずに乗り越えている家庭もあると思いますが、子どもの個性や、各家庭で大変さも違うので、社会全体として子育てについて考えるタイミングにしたい。育児や仕事もある中、できることは限られていますが何とか政治や行政に声が届いてほしいです」と話していました。

SNS上で思い伝える“デモ”実施へ

会見した保護者たちのグループは3月1日、SNS上で思いを伝えるデモも行う予定で、全国から動画のメッセージが集まってきているということです。

この中には、助成金を会社に申請してもらえない保護者もいて、小学生の息子の休校で仕事を休まざるをえなかった30代の女性は、「使えるはずの助成金が使えない。今こそ子どもを産み育てやすい国にしてください」と訴えています。

娘が小学校に入学してすぐに休校となった父親は、「休校で親が休むことは自己責任ではありません。早く支給してください」と訴えているほか、コロナ禍で子育てが大変になっていると感じ、活動に賛同した沖縄県の女性は、「つらいときだからこそみんなでつながろう」と呼びかけています。

動画はそれぞれ15秒程度で「子育て緊急事態宣言」というハッシュタグをつけて3月1日の午後7時に一斉に投稿されるということです。